というわけで試合開始。
先に探りを入れていくのは音田。
新井選手はじっくり見ながら寄ってくるが、そこは音田のエリアである。
しかも練習の成果か、これまでの経験か、ガードが機能し、無駄なパンチを吸収しているように見える。
うまく主導権を握ったのか、新井選手の手数の増え始めに、うまくリズムを崩し、左、右とわき腹に打ち込む。見た目以上に衝撃を与える、音田特有のボディをである。
若干、新井選手が受身の態勢になる。
そして、まさにギリギリのカウンターで左のフックが新井選手の顔面を捕らえる。
ほんの一瞬の差である。
いきなりダウンを奪った。
終盤、いい音のボディをもらうものの、ゴングと同時に一息入れて、何事もなかったようにコーナーに戻る。
出だしはまずまずである。 |
2R、リセットされた感でスタート。
先ほどのダウンは置いといて、序盤は五分五分である。
しかしながら音田は、胸以上、頭部を集中的に責めるものの、若干もらう率が高くなる。
さすが、新井選手はよく見てくる。
いくらタフな音田でも、新井選手のパンチは相当なスタミナを奪い取る。
一瞬足元が緩む瞬間がある。
しかし、突然目を覚ましたように、ボディめがけて打ち込む音田のスピードはまったく死んでない。
そして絡み合う。
バッティングにより左瞼が切れる。
あまりひどくはなさそうでホットしたが、要注意である。
そして音田はすばやくきちっとガードする。
なんだか、大人になった感じがした。
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3R、もつれあいながらの打ち合い。
お互い、相当の数を打ち込みあう。
これはどちらもかなりしんどいはずである。
しかしながら、頑なにガードを決めて近寄り続ける音田に比べ、すっと離れた瞬間に手を下げる新井選手の方に疲労は蓄積し始めているように見えた。
もしくは、音田の闘争心が勝っていたのか。 |
4R、組んずほぐれずの打ち合い。
観てるこっちの息が止まりそうである。
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5R、相変わらずの激しい展開だが、ここで気付いた。
音田の低い姿勢からのボディーへのまっすぐは、けっこうスピード感がある。
低くなるまでと、低くなってからの打ち始めの感じがなんとなく。
今までもだったんだろうか?
たいした武器のような気がした。
しかも、紙一重でかわすシーンが頻発し始めた。
そして、疲れの見えた新井選手に容赦なくボディを次から次へと送り込む。
新井選手は丸くなり、絶えながらなんとか寄ってくるものの、手を出すまでに至らない。
ホントに大人になったような気がした。
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6R、もちろんいくらかはもらうものの、明らかに音田のペース。
打ち込んだボディは相当な数であろう。
これで倒れない新井選手は、恐ろしいほどにタフである。
早く倒さなければ、という思いで、観ている方はなんだかあせる。
しかしながら、新井選手は、時折鋭い一撃を繰り出すものの、次の手がなかなか出ない。
かなり苦しいのではなかろうか。
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7R、記憶に間違いなければ、ここまで毎回、最初の一手は音田である。
攻めの気持ちが勝っているに違いないと思う。
苦悶の表情を浮かべる新井選手に比べ、音田の顔は変わらない。
とそこで、新井選手。バッティングにより左目が切れる。
その直後、これまで接近戦だったのが、少し距離を置き始める。
が、しかしまたもつれ合う。
そんな流れがしばらく続く。
相変わらず、息ができないし、瞬きもできない。 |
8R、細かいポイントのことはよくわからないが、ここまでは、間違いなく音田優勢だと思う。
そしてまた、この回も音田が初めに手を出す。
しかしながら、その直後、新井選手が近づき、なんだか上手く音田に手を出させないようにうまく封じ込めながら、自らはパンチを放ち始めた。
何が起こるかわからないのがボクシング。
一瞬ヒヤッとしたりした。
がっやっぱり、音田は負けてない。
明らかにスピードに感のなくなった新井選手に対し、コツコツとペースを崩すことなく腕を出し続ける。
けしてクリーンではなかったが、音田の左!右!で、新井選手は足がもつれるように腰からくだけた。
明らかに、これまでの蓄積の成果である。
新井選手は立ち上がるものの、さらになだれこむようにひざまづく。
10数秒の攻防を経た後、ゴングが鳴った。
見事な判定勝ちである。
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